14 恩寵

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「…じゃあ、先生のデジカメ貸すから…」 「それこそ、今回の演奏会で出番のない部員にやらせてください。僕からしたら、コンデジの方が使い慣れていないから、ほぼ同レベルですよ」 「…そうなの?」  そうこうしている内に、電車は美星ヶ原から数えて二つ目の駅、浜路駅のホームへと入っていく。 「センセー、ここで下りるんでしょー」  少し離れた場所にいる星ヶ先学園の制服を着た一団が、こちらにいる篠原先生に呼び掛けてきた。 「…そうね、みんな~下りるわよ~」  竹中の説得を諦めた先生は、彼等の元へと歩いて行く。すると竹中は、手すりにぶら下がるように立ち上がってその背中に声を掛けた。 「先生、演奏は何時頃になるんです?」 「え?…え~と…」  不意打ちの問い掛けに戸惑いつつ、腕時計を見ながらスケジュールを思い出す。 「十三時三十~四十分ぐらいになると思うけど?」 「…あと一時間半って所ですか…行けそうなら様子見に行きます」 「…頼むわね」  そう言って、彼女は駅に到着して開かれたドアから、演奏会に向かう部員と共に下りていった。  一分の停車時間が過ぎ、扉が閉じてゆっくりと電車が動き出した時、一連の会話を傍で聞いていた大谷は、改札口を通っている吹奏楽部の一団を見ながら竹中に訊ねる。 「…ねえ、なんですぐにカメラ取りに帰ってすぐに行きますって言わなかったの?」 「そりゃぁ…」  同じく改札口を見ていた竹中は、そう言いながら大谷を見上げる。 「すぐに行きますって言ったら、俺がメインで撮る事になる。そうなると、呼ばれた一年の誰かと、呼んだ吹奏楽部の友人の立場がないだろ?俺が行くにせよ行かないにせよ、撮るのは呼ばれたヤツだ。でないと二人の顔が立たない」  聞いて三人は「ふ~ん」と納得したが、間を置いて大谷がポツリと呟いた。 「…で、実際の所、竹中君は行くの?」 「さて…問題はそこだ、どうしたものかな」  結局の所、彼は例の八雲レンズを取りに行く事を念頭に考えているようだ。
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