14 恩寵

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 城東北駅。  自宅の最寄り駅であるこの駅に降り立った竹中は、カメラを取りに一旦家に帰ろうと、改札口を通過して北口方面の出口へと向かう。  駅構内に設置された時計を見てみれば、時間は12時15分を指していた。  自転車に乗って家に帰ってまた戻ってくれば35分ごろ、その辺りで来る電車は38分、それに乗れたとして学園に着くのは13時30分ぐらい。そこから浜路駅に行くと50分ぐらいになって、そこから演奏会の会場に向かったとしても… 『やっぱり、無理かな?』  そもそも、二つ三つ心当たりのある場所は思い浮かぶが、会場がどこなのかを聞いていないのだから、最短で行ける訳もない。  たとえレンズを取りに行かなかったとしても、会場がはっきりとしないのだから、結局は間に合わない公算の方が大きい。 『先生の携帯アドレス知らないし、吹奏楽部にもアドレス交換するような友人はいないしな…やっぱ無理だ』  と、結論付けながら、自販機で○ろはすのみかんを購入していると、見知らぬ老人が声を掛けてきた。 「…君…ちょっといいかな?」 「?…はい…なんですか?」  竹中が振り返るとそこには、身形の整った柔らかい物腰で穏やかな雰囲気の、それでいてどこか威厳を感じるような、飾らない老紳士といった表現がしっくりくる佇まいをした老人が立っていた。  何の用だろうと相手の出方を待っていると、老紳士は小さくて細長いケースを差し出してくる。 「…これは…?」 「君、先程の高校生達と知り合いなのだろう?」 「…先程の高校生…?」 「彼等の忘れ物だ、届けてやってくれないか」 「はぁ…」  要領が得られないまま、吸い込まれるように老紳士が差し出したケースを受け取る。よく見ると持ち手の所に星ヶ崎学園の校章がプリントされたプラスチック製のタグが取り付けられていて、裏にH,OUMIと書かれていた。
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