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こんな物を押し付けられても困るとばかりに顔を上げたが、先程まで目の前に居たはずの老紳士の姿はどこにもいない。
「え~ちょっとぉ…も~…落とし物は駅員さんに渡してくれよな…」
ブツクサそう言いながら、消えた老紳士の姿を求めて周囲をキョロキョロとしていた竹中は、思いの他軽いケースだなと感じた時に、老人の言っていた言葉が思い当たった。
「…高校生達って、浜路駅で下りた吹奏楽部の連中の事か?」
もしそうならば、中身は楽器という事になる。近くにベンチを見付けた竹中はケースをそこに置いて、ファスナーを開いて中を確認すると…
「フルートか…軽いはずだ」
予感的中、吹奏楽部の誰かの忘れ物だ。
「って、もうすぐ演奏会だろ?」
時間は12時20分過ぎ、演奏開始まで一時間とちょっと。落とし物として駅員に渡したとしても、演奏会までに持ち主に返るはずなどない。
つまり、彼が直接届ける方が早い。が…
「…届けるにしても、俺は会場がどこか聞かされてないぞ?」
先程述べた通り、吹奏楽部の人間でアドレス交換するほど仲のいい相手はいない。光画部一年の誰かが会場にいるはずだが、それが誰なのかも知らない。
光画部一年の内、彼がアドレス交換をしているのは佐倉だけ。モノは試しにと彼に連絡を取ってみると…
―今、寮で昼メシ食べてますけど?―
演奏会の話を訊いても知らないという返答、一年の誰かから聞いてないかと訊いてもやはり知らないという。
次に部長に連絡を取るが、電源が入っていなくて繋がらない。後で訊いてみると、この時彼女は映画館で映画を観ていたらしい。
ほぼ100%部員と連絡が繋がる切り札の部長ルートが使えないとなると、取り敢えず次の手が浮かばない。
「あ~面倒な事になってる~」
ケースを睨み付けながらそうぼやいても何も始まらない、会場になりそうな心当たりの場所を当たってみるしかない。
と、そこで彼が思い出して悩み始めたのは、カメラを持って行くかどうかだ。
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