14 恩寵

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 このフルートのみ持って行ってもいいとは思うが、カメラを持参して行くというニュアンスの事を言っているので、それはどうしようかと悩む。  が、それも数秒、竹中は届け物の方を優先させる事を決めた。  そうと決まれば彼はケースを手に持ち、再び電車に乗るため駅構内へと入っていく。 「…だいたい、撮影がどうのって話は俺の責任じゃないしな、そもそも今日になって来れないって言い出した江藤が悪いんだ」  などと責任回避の独り言を言いながら歩いていると、竹中はハタと気付いた。  戸部は頼まれた時にすぐに断っているが、江藤は少なくとも今日までは撮影に行くつもりでいたはずだ。そうなると、演奏会の事を色々と詳しく聞かされている事になる。 『…てことは…江藤は会場がどこなのかも聞かされていたんじゃないのか?』  気付くと同時にスマホを取り出し、江藤のアドレスへと掛けた。  コール四回で彼の携帯へと繋がる。  手短に状況を説明し、会場がどこなのかを訊いてみると… 「城東町立青年音楽ホール?」 ―ああそうだが…どうした、声を裏返して― 「いや、だって…あいつら浜路駅で降りてたぞ?」 ―その事か…その音楽ホールの最寄り駅は城東駅で、浜路より五つ先で乗り換えて二駅だから時間が掛かるんだよ。だから浜路からバスで行くんだとさ― 「そういう事か…しかし、最寄りが城東駅ってことは…」 ―お前の家からだったら、飛ばせば30分ってとこだろうな―  もし、江藤に連絡を取っていなかったら、浜路駅周辺の見当違いの場所を彷徨っていたことだろう。 「サンキュー、江藤」  気持ち悪いから礼を言うなと言っている江藤の言葉など聞かずに電話を切ると、再び踵を返して駐輪場へと直行する。  時間は12時34分、一度家に立ち寄って向かったとしても、13時20分頃には着く公算。駐輪場から出て来た竹中は自転車に飛び乗り、ケースを肩にかけて一気に加速していった。
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