14 恩寵

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  Amazing grace, how sweet the sound That saved a wretch like me I once was lost, but now I`m found Was blind, but now I see やさしい愛の てのひらで 今日もわたしは うたおう 何も知らずに 生きてきた わたしは もう迷わない ひかり輝く 幸せを 与えたもうた あなた おおきなみむねに ゆだねましょう 続く世界の 平和を Amazing grace, how sweet the sound That saved a wretch like me I once was lost, but now I`m found Was blind, but now I see  故・本田美奈子氏のアメージンググレースfor Balot 今、星ヶ崎学園の吹奏楽部がステージの上で演奏している曲。  無論この場では歌う人間はいないから、実際には歌詞などは聞こえてこないが、真光から聞かされていた竹中の頭の中では、はっきりと歌声が響いていた。  そしてそれが終わって次の曲の演奏が始まった辺りで、竹中はファインダーを覗きながらふと思う。  人には人それぞれ望む何かがあり、それぞれにふさわしい恩恵が与えられるのだとしたら、自分の理解できない生き方もありえるのだろうと。  あまり納得は出来ないが、取り敢えずそう思う事で例の堂々巡りは収まりそうな気がした。    十数分後 「美月~」  無事演奏を終えた近江初音は、エントランスにいた友人の姿を見付け、名前を呼びながら駆け寄ってきた。 「初音~、ちゃんと演奏できてたよ~」 「ありがと~、フルートをどこかに忘れた時はどうなるかと思ってたけど…」  安堵感と充足感で興奮気味にそう語る彼女は、自分の事のように一緒になって喜んでいる山之内の言葉を聞きながら、ふと周囲を見渡す。 「…あれ?竹中はどこに行った?」  遅れてやってきた美橋が、近江の気持ちを代弁するように山之内に訊ねる。 「…SDカード残して、河川敷に紫陽花撮りに行ってくるって…さっさと行っちゃいました」 「え?…あたし、まだお礼言ってないんだけど…」
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