第1話

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 今日、私――相沢海月(あいざわみつき)は仕事を辞めた。 もっと正確に言うなら6月1日午後2時57分、隣のデスクの山形さんが自分の携帯を充電するために、わざと私のパソコンのプラグを外し昨日から完徹して作った資料のデータが消えてしまった瞬間に、私はデスクから立ち上がり辞職届けを出したのだ。  なぜこんなことでと思う人もいるだろうが、もう私は精神的に限界だったのだ。 お分かりだと思うが、山形さんのそれは完全なる私への嫌がらせで、もちろん彼女だけがしていたわけではない。 ちなみに入社してから一ヶ月してからずっとである。  さらに言うなら一年前、夢と希望を持って入社したはずのこの会社は所謂ブラック企業だったらしく、それにより完徹しなければ作れないような仕事を言い渡されることが当たり前であった。  それでも必死に一年と数ヵ月耐えに耐え仕事をこなしてきた私は、平気な顔で盗電していた山形さん何かより、きっと良い働きをしていたと思うのだが、世界と言うのは不平等である。 ……私が世界を語るのはどうかとも思うが。 「疲れた……」  でも今は、本当に、そのたった一言であった。  だからこそ見上げた空の様子は今の私にピッタリお似合いなのだと、自嘲的な笑みが浮かんで消えた。  この不況の中、新卒生ですら就職が難しいと言うのに、まともな仕事が見つかるわけがない。 仕事もない貯金もあまり持たない私は一体、これからどうしたら良いのだろう。
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