2人が本棚に入れています
本棚に追加
運転手は少しの間考えるような仕草をしたあと分かりましたと頷き、ゆっくりと車を走らせ始めた。
一時間、二時間と時間は過ぎていき、それに比例して辺りは段々建物がなくなり南国風の木々に代わっていった。
その間、一切運転手との会話はなかった。
そして車が停まった場所はフェリーの船着き場であった。
「大体あと10分くらいしたら出るフェリーに乗っていけば、ほとんど人のいない島に行けますよ」
「そうですか。
親切にありがとうございます」
「いいえ、仕事ですから。
……貴女はまだ若いんですから、これからですよ」
「……はい」
これが小説か何かだったとするならば、じんとする場面なのかもしれないが、残念ながら私の心に何も響くものはなかった。
ただ、彼が私のこれからすることに感ずいていて、あんな言葉をはかせたのだと思うと少しだけ胸が痛んだ。
降りる直後にシートとシートの間に1万円を六折りにしたものをねじ込むと、タクシーにしてはなかなか高い値段のお金を払って、最後までそのタクシーを見送るとフェリー乗り場へと足を運ぶ。
そこにはほとんど人がいなかった。
切符売り場に中でテレビを見ている従業員らしき人が一人、初老を迎えているであろう夫婦が一組、それから無駄に大きな荷物を持った私と同じくらいの年齢の男性が一人。
あとは小さなデザイン的な綺麗な夕日に向かって飛ぶクジラの絵がポツリと飾られてあるだけである。
妙に気になって下の方に書いてある作者名を知ろうとしたが、サインであるため全く何と書いてあるのか分からずがっくりとした。
切符を買うと「18:04発」と書かれており時計を見ると既に二分ほどオーバーしていた。
最初のコメントを投稿しよう!