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「ご連絡を差し上げようと思っていたところです…」
老人の書斎脇に詰めている主治医が純一にそう告げた。
書斎を最後の場所に選んだのは老人の意思だった。
純一は申し訳なさそうに畏る主治医に、まるで全てを悟っている風に軽く頭を下げて、ゆっくりと老人が横たわるベッドへと歩んで行く。
私も主治医も、なすべき事は無かった。
随分と遠い書斎の入口を背に、腕を前に組んで立ち竦むしかない。
純一はベッドの脇に膝まずき、細く痩せ細った腕の先に手を添えた。
余計な物音のない広い部屋に純一の透き通った声が響く。
「お疲れさまでした…お爺さま」
微かに視線に入る老人の頭が、僅かに上下した様に見えた。
数分なのか、もっと短い時間なのか微動だにしなかった純一がゆっくりと身体を起こし…
老人の顔に手を伸ばして瞼を閉じた。不謹慎だと思いながら、まるで現実感のない映画を見るような思いに囚われる。
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