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「帰りましょう…沢木さん」
「はい…でも宜しいのですか?」
コクリと頷いて、ゆっくりと書斎を出て行く。
車に乗り込んで、後部座席の純一にルームミラー越しに視線を向ける。
ずっと瞼を閉じたままで身じろぎもしていない。
老人の葬儀は誰にも立ち入りを許さない、まさに密葬だった。
残された若い総帥は、殆どの企業を売却しし絡みを断ち切った。
都心の一等地に巨大な高層オフィスビルを巧みに素姓を隠して建設して、そのペントハウスへと移り住んだ。
「私には、去れと仰らないのですね?」
「沢木さんさえ良ければ…」
初めてだった、微かにこの男から怯える表情など見たのは…
「私には立ち去る理由がございませんから」
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