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「梗介、聞いた?」
そこに立っていたのは立花なずなだ。幼馴染と言えば疑問が残るけど、小さい頃はすごく仲のよかった人物で、なんというか、すごく面倒見の良い世話焼きな女の子だと思う。
肩甲骨までありそうな髪を、ポニーテールだかそんな結び方で束ねている。正直なところポニーテールはすごくタイプで、外見だけなら一目惚れしそうな勢いだけど、昔からの友人をそんな目では到底見れたもんじゃない。
「聞いたって、何を?」
特に考えることなくありのままを聞いてみる。僕は多分そのとき疑問符まみれでマヌケな顔をしていたけれど、なずなは正反対の、焦りに満ちた顔をしていた。
気づかなかったけど酷く息切れをして汗をかいているところを見ると、走ってきたのかな、と推測できた。
「楓が……帰ってきたって。この町に帰ってきたって、この学校に来るって、さっき義野が……」
僕は驚愕した。多分僕は驚きと喜びに満ち満ちた顔で、だけど言葉は喉から出て来ない。そんなもどかしさを感じていた。
心の準備はできないままに、だけどこれから戻ってくるあの日失われた日常に気持ちを踊らせていた僕は、数日後の僕からしたらすごく滑稽だ。
あの日から僕の知らないところで狂い始めた日常が、もう少しで僕の目の前に姿を現す。
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