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『余り帰って来なかったのに』
《それは…大輔自身が決めたのじゃよ。傍に居て溺愛するのは容易いが、先々寿を手放し難くなる。故に仕事にかこつけ溺愛する逆を行った…という所か》
…納得行かない。
《寿が十五になった時から本格的にの?自ら娘離れを…そして寿に父離れをと、異国の病院に行くなどと言い出しおったが…大輔は成長するそなたを見て、喜びつつも切なかったのやも。そなたは…いや、良い》
アタシのお父さんはお医者さんで…
《遠い地に医者を欲する場所があるなどと…あ奴め。そこでは己の技量など存分に発揮出来ぬであろうに…言い出したら聞かぬ男じゃ》
お父さんは…お医者さんだからって思ってたけど…
《その時既に阿吽丸との婚姻関係は確実のものとなっておった故、阿吽丸に任せると言って》
驚いて隣を見ると、優しく頷かれた。
《大輔は大輔なりに、そなたを慈しんでおる。不器用ながらも良いと思うように。本当は寂しい癖に妾が無理に…引き離したようなものじゃ…すまぬ…》
『ッ…』
《まだ寿が小学の頃か…大輔はいつしか我らを心より信頼してくれての…礼まで言われた事がある》
『お礼…?』
アタシが見た主様は…今までで一番、綺麗な笑みを浮かべた。
《精霊の守護もあり、留守がちな自分の代わりに護ってくれる上、何よりこれで寿が自分よりも先に…逝く心配が無くなって安堵したと、のぅ》
『ッ!!』
《寿には自分より必ず長生きして貰って、自分を送って貰えると…最高に親孝行な娘じゃと》
『お、父さん…』
ポロっと、涙が溢れた。
それは…昔アタシに言ってた…お父さんと交わしたらしい約束
お母さんの二の舞は絶対に嫌だって言って、何度も約束を…
単純に幼いアタシは、お父さんより絶対長生きしてあげるって約束したんだと思う。
お父さんが…時々凄く寂しそうに笑うから。
大好きなお母さんが居ないから、アタシが笑わせてあげなきゃって…。
ちょっとした妬きもちもあったと思うけど。
お父さん…も…人間に戻れないアタシの事、前向き…に考えてくれようと…?
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