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俺はこの国では少し有名な魔法使いだった。生まれつき魔力が人よりも強く、自分で言うのもなんだがそこそこ容姿も優れており、周りの人からも好かれていた。魔法学校も首席で卒業し、学生時代にできた可愛い彼女もいて、子供の頃からずっと一緒の親友もいる。このままこの順風満帆な人生を全うする予定だった。しかしそうはならなかった。
あるとき、俺と親友は国から一つの任務を与えられた。それは、大昔にこの世界を恐怖の渦に陥れた魔王の封印が解けかかっているので、再度掛け直してくるという至極簡単なものだった。
俺達は準備を整えると、早速封印の地へと向かうことにした。
『彼女に挨拶はしてきたのか?』
と、国を出るときに親友は俺に向かって言う。顔がにやけているぞ。
あまり茶化すんじゃない。それにどうせ今日中に戻ってこられるんだ。いちいち挨拶をしてくる必要も無いだろう。
と、そんな旨の返答をし、俺は黙々と歩き始めた。森の中に入り、十分ほど歩いたところで親友が口を開く。
『お前って案外冷たいやつだよな。そんなんじゃあ、彼女に愛想を尽かされちまうぜ?』
『それは困る』
『なら今から戻るか?』
『冗談。たった今到着したんだ』
俺達は足を止めた。眼には巨大な黒い岩が映る。その岩の下から微かにだが魔力が漏れ出ているのが確認できた。その岩の周りを見渡してみる。木や草花が枯れかかっていた。恐らく岩から漏れ出ている魔力のせいだろう。
『封印が解けかかっているというのはどうやら本当らしいな』
俺は親友に向かってそう言った。
『ああ、そうみたいだな。じゃあ早速頼むよ。このくらいならお前だけで十分だろ』
俺は岩の周りに白いチョークで円を書いた。魔法の発動範囲を限定するためだ。そして、封印のための呪文を詠唱する。
途端、黒い岩が青白く光り始めた。そしてそのまま光は森全体まで広がると、少しずつ弱まっていく。これで再封印は完了だ。
『よし、戻るか』
俺達二人は国に戻り王から褒美をもらうと、自分の家へと帰った。家では彼女が待っていた。
『どこへいっていたんですか?』
彼女が俺にそう尋ねる。
『ちょっと魔王の封印をし直しに行ってきたんだ』
『あらそうなんですか。ではご飯の支度をしてきますね』
そう言うと、彼女は奥へといってしまった。少し寂しい感じがしたが、我慢をしよう。
その日の夕食、彼女はいつもより静かだった。
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