大きな世界の小さなお話

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 夜。俺は彼女を起こさないようにこっそりと家を抜け出した。黒い岩のことで気になることがあったからだ。  というのは、漏れ出している魔力があまりにも少なかったということだ。封印されているとはいえ、仮にも魔王だったんだ。それなのに、あれだけの量しか魔力が漏れ出していないというのは、少し気にかかる。  森の中をしばらく走ると黒い岩が目に入ってきた。と、同時に他の物が視界に映る――何だ? 人影? 『来ると思っていたよ』  黒い岩の前に立っていた人間。それは親友だった。 『お前は察しが良いからね。きっと気付くと思っていた』 『やっぱり……』  俺は絶望とも諦めとも思える感情を抱く。一旦間をあけ、そして次のセリフを一息で吐いた。 『魔王の封印はすでに解かれた後だったんだな?』  俺は問い詰めるようにそう言う。 『その通りだ。そして解いたのは――』  この俺だ、と親友は言う。予想はしていた。この国の人間でそんなことができるのは、俺を除くとあいつしかいないだろう。 『一体どうして、こんなことを……』 『どうして? 特に理由はないさ。強いて言うなら刺激が欲しいだけさ。人生のね』  そう言い終わると、俺の親友だった男はそのまま闇の中へと消えていった。直後、国の方から凄まじい爆音が響いてくる。俺は急いで国へと戻った。――が、しかし。  国は既に壊滅状態だった。
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