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生きている人間はいないのだろうか。眼に映るものはすべて瓦礫。彼女は、どうなったんだろう。死んでしまったのだろうか。
俺は家があった筈の場所へと向かう。当然の如く家はただのコンクリートの塊と化していた。しかし、俺はそこで信じられない光景を目にする。
それは彼女が家の真ん中にただ一人で、ぽつんと立っていたのだ。それも、今までに見たことのない、大量の魔力を身に纏って。
『何……で?』
彼女はこちらを向きながら、ゆっくりと口を開いた。
『何……で? 私、どうして皆を……? 教えて、教えてよ!』
ぐわん。と俺の真横の空間が歪む。そこから俺の親友だった男が現れた。そして彼は俺に向かってこう言った。
『封印を解いた魔王なんだがな、実は体が既に朽ちていて使いものにならなかったんだ。だから意識と魔力のみを特殊な封印術でお前の彼女の中に移させてもらった。悪く思うなよ』
そう言うや否や、彼は指を鳴らす。同時に彼女に変化が起こる。
『や……だ。また、意識が……』
呻き、叫ぶ。彼女が纏っていたどす黒い魔力は、一気に国を覆いつくすほどの大きさに広がった。
『はっ! もうああなると誰にもとめられない! この俺でも、勿論お前でもなあ!!』
そう親友は喚く。その時だ。彼の胸を黒い一筋の光が貫いた。
どさり。彼は俺の足元に音を立てて崩れ落ちる。俺は彼を見下ろす形になった。胸にはぽっかりと穴が開いていた。
『すまなかった』
『何がだ』
『羨ましかっただけなんだ』
『そうか』
『許して……くれ』
言い終わると、彼は息絶えた。
『許せるわけ、ないだろ』
俺はポツリとそう呟くと彼女のほうへと向き直った。まだ完全には自我を失っていないようだ。ならば、望みはある。
『殺……して。私は、魔王なんでしょ?』
『違う、お前は魔王じゃない。お前えの中に魔王がいるだけだ』
『だったら、どうして……!』
『いいか、よく聞け。今から俺がお前にある術を施す。それが成功するかどうかは、お前の意志にかかっている。お前が、魔王に打ち勝ちたいと意志を強く持つことが術の成功につながる。しっかりするんだ!』
俺は声を荒くする。こんなの俺のキャラじゃない。でも、それでも。
『分かった』
そう言うと、彼女はゆっくりと眼を閉じた。そこにはうっすらと涙が浮かんでいる。
俺は、彼女のそんな姿を見ると同時に魔法の詠唱を開始した――。
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