第1話 真紅のオーヴァーチュア

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時計の針は、午後11時半を回ったとこだった。 まだ真新しいタワーマンションの前で足を止めた男は、カードキーを取り出し、オートロック扉を解錠した。 ドアはスーっと解放され、中へと歩を進める男だが、その足取りは重そうだ。どこかそわそわと落ち着きなく、挙動不審にも映らなくもない。 とは言え、別にそれが怪しいわけではない。 ここに入っていくのは、男にとって、当たり前の行動。扉をすんなり解除出来たのも、ここが彼の帰宅場所なのだから。 つまり、ここは自分の家であり、そこへと帰途に着くのは、極々自然な流れで、てんで怪しくもなければおかしくもない。 そんな彼の名は霧島直哉(31)。先も述べたように、このマンションの住人なわけだ。 でも、それにしては、少し妙だ。マンションに足を踏み入れたまでは何ら問題もない。しかし、そこからの彼の行動には、些か首を傾げさせられるものがある。 普通入り口を抜けたら、そのまま真っ直ぐ、エレベーターへと向かうだろう。
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