猫の仕事

5/7
1368人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
 「橘……お前、意外に重いね。」  「ひどい、降ろして、降ろして」  床に足が付いてほっとしていると、先生が私の頭にポンと手を乗せ「嘘だよ、重くない。」と言って先を歩き始めた。    先生の後をついて、リビングに入る。  先生は直接キッチンに入り鍋をかき混ぜている。  「先生…お料理するんですね。何でも出来るって、ちょっと嫌味?」  「何、言ってんだよ。食わしてやらねーぞ。」  そばに行って鍋を覗き込む、どうやらトマトソースのようだ。  「お昼はスパゲティですか?」  「ま、定番ってとこ? これはこのまま少し煮込んどくから、さっあっち行って」    リュックと着替えの入った紙袋をソファのそばの床に置き、「あっ」と思い出す。  「先生、小学生男子から、女子高生に戻りたいんですけど、着替える所貸してもらえますか?」  「なんだ、着替えちゃうの?可愛いのに。」  先生がキッチンから、コップとペットボトルのお茶を持ってきながら、私の方をニヤッと見た。  「へー先生あっちの趣味の人なんだ…あ、だから女嫌い?」  さっきの妄想を再燃させて、冗談でそう言うと、バコンと2Lのペットボトルの底が頭に乗っかって来た。  「痛!」  「お前ってよっぽどお仕置きされたいんじゃない?」  ペットボトルとコップをローテーブルに置き、尻込みする私の首に腕を回しヘッドロックを掛ける。  「うっ…く…く、苦しい…助けて…」  先生の腕に両手を掛け、外そうとしていると、先生の頭が耳元に降りて来る。    「俺の言う事、聞ける?」  「はい…ききますから…た、たすけて…」  耳に直接囁かれる攻撃の方が、ヘッドロックより数倍威力がある。  ぼっと顔に火が付いたようになり、逃れたい一心で、はいと言ってしまう。  「忘れんなよ。」  私を放しながらそう囁いた先生の顔は、またしても悪魔の笑みを浮かべていた。    
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!