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「お昼にしようか。スパゲティ茹でるのと、サラダの野菜を用意するのとどっちがいい?」
自分の手が彼女の隙に付け込んで動きだす前に体を離し、気分を一新して笑いかける。
赤い目を擦って気持ちを立て直す彼女の姿がいじらしい。
「先生ってホント人使い荒いですよね。サラダの用意しますから、グリーンサラダでいいんですよね?」
「一緒にやった方が楽しいでしょ?」
彼女の手を引いて立ち上がらせ、そのままキッチンに連れて行く。
彼女と過ごす時間の全てが重要な意味を持つ、1分でも1秒でも無駄に出来ない。
でも焦らず、ゆっくりと、自然に。
決して俺の意図を悟らせないように。
冷蔵庫からレタスやキュウリやらを出し、橘に渡す。
自分はパスタポットを取り出し、レタスを洗おうとする彼女と交錯しながら鍋に水を入れる。
蛇口を取られてブーブー言ってるのがおかしい。
狭いキッチンで、二人の人間が動けばどうしたって接触は避けられない。
それが意図されたものだと、彼女が気づく筈は無いのだが、用心に越した事はない。
「ごめん、ちょっとここ開けるよ、スパゲティ出すから」と彼女の足元の引き出しに手を伸ばす。
サラダを盛り付ける皿を出して渡す時も、茹であがった麺をザルに取るときも、ごめんと言いながら、彼女の頭の上から手を出したり、鍋を持つ手と体の間に閉じ込めたりと、自分でも呆れる。
そしてそのちょっとした接触の度にうっすらと赤く染まる彼女の頬を見て充足を感じ、そこに触れようとする自分の手を諌めるのだ。
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