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「いただきま―す」
ソファとローテーブルの間に入り込んで座りポンと両手を合わせた橘を見る。
簡単だけど、二人で作って、二人で食べる。
「あ、先生これトマトソースいけます。おいしい!」
その味が橘の記憶に残ればいい。
「やればできる子なんだよ、俺は。」
「何ですか、それは……もしかして初めて作ったんですか?」
「今は、ネットを見れば大概の事が分かるからな…うんうまく行ったよな。」
「うわっ、あぶない。もしかしたら、失敗作を食べさせられてた?」
「その辺は手抜かり無し、缶詰のソースは常備してある。」
「ふ~ん、じゃあ私の為に手作りソース、作ってくれた…んだ…」
にこにこと元気に食べていたのに、ふいに俯いてしまった。
どう、感じたのだろう。
彼女の顔を覗き込む、と顔を逸らしてしまったが、少し上気した頬が見えた。
まあ、うまく行ったようだ。
「そう、橘の気を引こうと思って。」そう言って笑いかける。
ばっと振り向いた彼女は真っ赤になってる。
「先生は、ホントずるい! 私の気持ちなんて筒抜けで誤魔化しようもないのにそう言う思わせ振りなことを言って!」
「嘘は言って無い。」
が機嫌を損ねさせてしまったからには、仕方ない
「君が大切で、大事にしたい。
そう言ったでしょ?それを信じて欲しいから行動で示してる。
君にはなかなか伝わらないみたいだから。」
そう言葉を重ねる。
下を向く彼女の顎に指を掛けて上を向かせ視線を合わせる。
大体彼女の『好き』と言う気持ちのなんてあやふやなことか。
アイドルタレントが好きなのとどれ程の差があるのか。
ああ、やばいな…。
少し拗ねて、涙混じりに上目使いで睨むこの顔…
彼女の気持ちを力づくで自分に向かせたくなってしまう。
あやふやな『好き』を強引に『本気』にさせたくなる。
「ホント…その顔やばいから…信じてくれないかな…」
そう言って抱きすくめて、彼女の顔を視界から隠す。
けれど、細くて、小さくて、力を入れると折れてしまいそうなのに、柔らかい体を腕に抱いてしまって、自分の中の加虐心を抑える為にありったけの自制心を総動員する羽目になる。
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