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ラグに座ってソファに寄り掛かり、俺の胸に顔を埋める橘の髪を弄ぶ。
体に感じる彼女の体温が言いようのない充足感をもたらす。
同時に決して認める事の出来ない衝動も湧き上る。
彼女に対する執着の強さに、自分でもどうかしてると思わずにいられない。
何がここまで俺を縛るのか、彼女の何がそうさせるのか……。
子供みたいな外見、それを裏切る瞳の強さ、アンバランスな精神。
彼女の道化のような言動は、彼女の鎧。
その鎧を引き剥がしたくなる自分が、味方なのか敵なのか、それさえ見極められない。
2年前の彼女との出会いに想いは遡る、執着の原因と言えばやはりあそこからなんだろう。
O駅西口のバスデッキ。
大学3年の春休みに、きっとこれが最後になると思いながらギターを抱えて独りで唄っていた。
バンドのメンバーとの亀裂は修復の効かないところまで深まり解散同然。
メジャーからのオファーを俺一人の我儘から棒に振ったのだから当然と言えば当然の結果だった。
「お前、後から一人でこっそりメジャーデビューなんてしてみろ!
俺ら絶対許さねーかんな!」
メンバーの一人にそう捨て台詞を吐かれ、自分でも
『4年になったら覚悟を決めて教育実習に臨もう』
そう決めていた。
女の子がデッキの柵に寄り掛かって聴いてくれてることに気が付いたのは、そろそろ日が暮れようかと言う頃だった。
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