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初めて担任として教室に立った時、生徒の中にあの女の子の姿を見つけて、心底驚愕した。
あの時も、小学生かなと思ったが、今も、制服を着ているからかろうじて高校生に見えるだけで、周りの女子生徒と比べると一際小さく幼く見えた。
こんな所で会えるなんて。
すると、2年前は中学生だったのか…。
君に逢ったら、一言礼が言いたかったが、そうも行かないな。
一人、異質な空気を纏っているように感じたのは、自分の先入観の所為かも知れない。
そう思った。
が、職員室で出身中学から送られて来た生徒たちの書類に目を通していて分かった。
2年前に会った時、橘柚衣は自殺未遂を起こした後で、カウンセリングを受けている時期だった事。
あの唄にあれ程泣いた理由も、思春期ならば頷けると思っていたが、それ以上に彼女にとって切実な意味があったのだと。
一見、彼女は普通に、高校生として毎日を過ごしているように見えるのだが、その実過去のトラウマが彼女の成長を阻んでいる、のかも知れないと。
担任としての職務以上に彼女の事を気に掛ける自分に気づくが、それも仕方無いだろう、とやり過ごした。
彼女の存在が音楽家としての自分に転機をもたらしたのだから。
だが、今感じている執着はまるで性質が違うだろうと、心の中で声がする。
いつの間にか、寝てしまっている橘の頬に指を滑らせて、その感触を味わう自分は、どんなに正当化しようとしても、出来るものでは無かった。
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