先生と子猫な私

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買い物メモを持って先生が出かけると、窓の外から駅のアナウンスや、電車の音、車のエンジン音など町の喧騒が聞こえてくる。  そうか、今日は日曜日なんだ。  一人でソファに座り、ホーっと息を吐く。  先生が居なくなって、さっきまでの緊張感から解放されたけど、主のいない部屋は何だか心許ない。  外のざわめきはそんな私の居心地の悪さを少し紛らわせてくれる。  一人だけど、先生の部屋に居る。  それが不思議で、落ち着かないのに暖かい気持ちになる。  ゴールデンウィークなのに、家に一人だと知った先生が自分の部屋に招きいれてくれた。  でも、それだけじゃ無い。  先生が私の為にしてくれた一つ一つが胸を揺さぶる。  先生と一緒にいられたらそれだけでいい。  昨日の朝はそう思っていたはず。  でも、今日はもっと欲張りになってる。  先生がふいに見せてくれた弱い部分で私の頭の中はいっぱいだ。  先生の役に立ちたい。  もっと言う。    先生に必要とされたい。  今のままの甘えさせてもらっている私じゃ、  『雛が巣立ったら、それでお別れ』  そうなっちゃうような気がする。  傷ついた生き物を拾ってきて、手当をして、治ったら、じゃあね。  それじゃあ、先生の傷は?  先生が私を手放せなくなるようにならなきゃ。  いつまでもひよこじゃ無い。  先生の棘を抜いてあげる。  どんな棘かも知れないけど。         玄関のドアの開く音。  ぱっと立って、急いで玄関に迎えに出る。  先生がちょっと口を開けて動きを止めた。  「お帰りなさい!」  恥ずかしかったけど、そう言って先生を見上げる。  先生はとても柔らかな笑顔を浮かべて  「ただいま」  そう言って私の頭をポンポンと軽く叩いた。  まるで2年前のあの時みたいに。  
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