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今日は、外に出ようと思っていた。
男の子の格好をした橘は衝撃的だった。
首の細さや、柔らかそうな透き通った肌、下唇だけちょっと膨れた、口紅も塗って無いのにやけに赤く見える唇、女の子にしてはちょっときつい目つきが、男の子の服装をしたら何だか危うく感じた。
ところが、橘は、エレベーターから出て来た彼女の肩を平然を装って抱いて歩き出したら、途端に百面相を始めた。
上から、覗き気味に見下ろしてる視線にも気づかず。
いつもの妄想が始まったのかと思ったら、その外見とのギャップに笑いが止まらなくなってしまった。
橘も何か感じたらしくて、声を殺して笑っている俺を見上げた。
大方、自分の妄想を見透かされたと思ったんだろう。
笑いを堪えながらドアを開けると中に入ってから振り返った。
その顔は挑戦的だ。
「随分楽しそうですね、知りませんでしたよ、そんなに笑い上戸だったなんて。」
橘にしたら、精一杯の嫌味を込めた言葉なんだろうが、それももはや微笑ましいとしか思えなかった。
玄関のドアを閉めると急に慌ててスニーカーを脱いで10cm程の立ち上がりを上がろうとした橘が転び掛ける。
こっちも慌てて彼女のお腹辺りに手を回して支えた。
冗談を言いながら中途半端に脱げた靴をちゃんと脱がせ自分も靴を脱いで廊下に立ったら、彼女が宙に浮いている。
吃驚するほど軽かった。反対の事を言って誤魔化す程その軽さに動揺してしまった。
その後、彼女が着替えると言った時、なんだと口では言いながらほっとしていた。
果敢にも俺に冗談を言ってからかって来た橘にプロレス技で応戦したのは動揺した反動だったと思う。
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