先生の秘密の彼女

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     「先生、はい!」  「なんだね、橘君」  「彼女って、何か特権とかあるんですか?」  「今の君の状態が既に特権だらけだと思うんだが…」  「あ、そうか、なら彼女の称号剥奪されても特権は残る?」  「残らないから。    アウトはアウト。  ばれたら全部無し。    君は転校、俺は退職。」   その後先生は、用事が入って急に出かける事になったからごめん、と言って急いで仕度をし始めた。  Tシャツとパーカーだったのを、カッターシャツと黒ジャケットに、ボロボロジーンズをスレンダーな黒パンツに着替えて。  メガネは丸メガネ。  シルバーのアクセサリーを付けて、はい、ミュージシャンSOUの出来上がり。  凄くかっこいい。  でも、手の届かない人になったみたいで、私はゆるい深澤先生の方が好き。  「夕飯も一緒に食べられなくてごめん。」  「大丈夫です。お父さんの所帰りに寄るから。」  「じゃあ、途中まで一緒に行こう、俺は電車で行くから車じゃないけど。」    「心配じゃないんですか?一緒に歩いてるの誰か知ってる人に見られたら…」  「ん?まあ、少なくとも教師の深澤だとは思われないでしょ?    君もほら、帽子被って。はい、かっわいい男の子の出来上がり。」  「先生、その言い方…お巡りさんに職質されないようにして下さいね。」  「人聞き悪いなあ、人を変態みたいに。」  そう思われても仕方無いと思ったが、言葉には出さないでおいた。  先生は反対方向なのに大通りの信号まで一緒に来てくれた。  肩に置かれた先生の手が離れる時、こんなことで寂しくなってどうする!と自分を叱りつけて、頑張って笑った。    「ごめん、明日もこのまま帰って来れないと思うから。」  先生の持ったギターケースが用事を教えてくれてる。    SOUと言う名前で活動してるのかどうかも分らないけど、全然知らない名前かも知れないけど、学校で会う時は深澤先生だよね?  「蒼馬!またね!」  わざと呼び捨てにして、手を振る。  「またね。ゆう。」    先生に背を向けて走って信号を渡る。   そのまま振り返らない。  空を見上げたら夕陽を受けて不思議な色に染まる雲が滲んで見えた。
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