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「久しぶりだよな、おまえん家。」
伊織は肩から提げていた大きなスポーツバッグとケースに入ったラケットを床に置き、キッチンカウンターに寄せて置いてある食卓テーブルの椅子に腰かける。
テーブルを挟んで向かいの椅子に腰かけ、相槌を打つ。
「そうだね、お兄ちゃんが一人暮らし始めてから来てなかったっけ。」
「おばさん、また居ないの?」
「うん。木曜日からかな?
ゴールデンウィークはおばあちゃんの所。」
「………」
コップに注いであった、ペットボトルのお茶を一気に飲み干して、伊織は何か言い辛そうに切り出す。
「あのさ、俺、昨日夕方、見たんだ。」
「…何を?」
伊織のコップにお茶を足し、自分にも継ぎ足してコップを手に持つ。
伊織は顔を上げ私の顔をまっすぐに見た。
「お前さ、小学生のガキみたいなカッコして怪しい男と歩いてたろ…」
「………」
あー、こいつに見られてたかー。
…白を切る…のは無理なんだろうなぁ…
「何?白切ろうったって無理だかんな。
俺がお前を見間違えるはず無いだろ。」
見透かされてるし。
「あの人は別に怪しい人じゃなくて…」
「意味わかんねんだよ。
こんな地元で、それもガキのカッコで、エンコ―って訳でもねーだろうし。」
「エンコ―って!そんなわけないじゃん!」
「じゃあ、なんなんだよ!言ってみろよ!」
「誰にも言わない?」
「お、おう。」
「知り合った経緯は話せないけど。」
「出会い系か?らしくねえな。」
「そんなんじゃなくて、でも。
…好きな人だよ。」
「はあ?!何だよそれ!
あんなデルモみてーなカッコして、ギターなんて持ってカッコ付けてて、まともなやつじゃねーだろ!
それになんだよ!お前のカッコは!
そいつ変態じゃねーのか!?」
あー言われちゃったよ。
先生、変態だってさ。
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