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翌朝、学校まで睡眠不足の重い体を何とか運んだ。
先生に会える。
会いたい。
会いさえすれば、きっと何とかなる。
それだけを考える。
「柚衣ちゃんおはよー」
自分の席まで来ると、真理ちゃんが優しい笑顔を向けてくれた。
世界中の皆から背を向けられているような気分だった私に。
砂漠の中の一滴の水みたいに胸に沁みる。
「真理ちゃんおはよう~」
目が赤いのは睡眠不足の所為だから。
昨日の夜遅く、滞在予定を繰り上げてお母さんが帰って来た。
その時私は自分の部屋で先生から貰ったCDを聴いて、伊織のことを頭から追い出そうと必死だった。
「ゆーいーただいまー、お世話様ー。」
あ、お母さんだ、帰るの早まったんだ…。
階下に降りて行くと、疲れた顔をしたお母さんが椅子に腰かけていた。
「お帰りなさーい。」
「ただいま、お父さんは?まだ?」
「うん」
「そう。
おみやげあるから、明日食べて。
お母さん明日は、寝てるから。」
そう言ってお母さんはカーディガンを脱ぎながら洗面所へと向かう。
その途中で独り言にしてはよく聞こえる声で
「ほんとにこの家帰って来ると憂鬱になるわ。」
と、こぼしていた。
その言葉がまた、私の胸をぐさりと刺す。
自分の部屋に逃げ帰りもう一度最初からCDを聴いた。
先生の深くてよく響く優しい声が聴こえて来て胸に沁みる。
昨日と今日では天と地ほどの差がある。
まぼろし?夢?妄想?
夢じゃないって信じさせて欲しい。
先生。
会いたい。
伊織は私に何も言ってない。
おかあさんのひとり言なんて聞こえてない。
先生のことだけ、それだけで頭をいっぱいにする。
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