先生の秘密の彼女

11/12
前へ
/263ページ
次へ
 「あのさ、坂口君に何か言った?」  前置き無しでいきなり間近で聞かれてドキッとする。    「あ、あ、言ったかな…」    「男テニのマネの私の友達!  朝練の後坂口君に話があるって言われて、ネット片付けながら二人で体育倉庫に行ったんだって。  そしたらいきなり頭下げられて、  『この間は中途半端な言い方をして悪かった。  俺は今当分彼女とか考えられない、でもマネージャーに止められると部が困るからできれば続けて欲しい。  どうしてもだめなら仕方無いけど。』  って言われたんだって。  個人戦で負けたばっかりだから仕方ないって、彼女言ってたけど。  でも、望みは捨てないでマネ続けるらしいよ。  柚衣ちゃんなんて言ってくれたの?  彼女、喜んでたよ。  坂口君が真剣に向き合ってくれたって。  ありがとうって」  ゆーかちゃんの勢いに圧倒されてたじたじになってしまったが、ここれはどう言ったらいいんだろう。  話合わせとく?でも…私の手柄じゃないよ…    「なんて言ったかって、その、喧嘩してて、つい卑怯もの呼ばわりしちゃって。  内緒で聞いた話を攻撃材料にしちゃって、ホント申し訳ないって言うか…」  「はは、何正直にそんなこと言ってんのさ、黙ってお礼言われてればいいのに。  その嘘吐けないところ好きだよ。  ね!お昼一緒に食べよ!」    「うん。」  と、あっけに取られながら頷く。  二人で教室に戻っていると  「おーい、早く席にもどれー」  と現国のおじいちゃん先生が後ろからやって来て私達を急かす。    ゆーかさんありがと。  伊織、潔いね。  私はわたしの為に動いていただけなのに。  伊織のおかげか、あんな売り言葉に買い言葉みたいにして言ったのに、ちゃんと受け止めたんだ。  うん、基本、いいやつなんだよな。    極悪非道って言ったの、あれは…謝ろう。  それから、伊織の気持ち、うん、私は気が付かなかった。  それがいい。  ゆーかさんに握られた手がじんわりと温かくて泣きそうになってしまう。  さっきまで世界中にひとりぼっちみたいな気分だったのに、今はもう、そんなことを考えていた自分が子供っぽく思える。    先生、ちょっと頑張れそうだよ。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1369人が本棚に入れています
本棚に追加