深澤蒼馬の彷徨

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 朝、いつものように教室に入り一通り生徒の顔を見渡す。  橘の顔も一瞬だが目に入った。  如何にも睡眠不足ですと言う顔をしている。  化粧している女子生徒もいる中、橘はいつも何もしていない。    顔色の悪さは隠しようも無い。  何かあったのだろうか。  心配が表情に出るのを恐れて、橘と視線が合うのを避ける。    こんな時にテスト前の職員室、教科準備室の生徒出入り禁止。  うっかりしていた。  準備室に入り、メールを入れてみる。  校内の携帯電話の使用は禁止だが、あいつはいつも電源入れっぱなしじゃないだろうか?  『何かあった?顔色ひどいよ。』  と送ってみる。  ひどくて悪かったですねー!寝られなかっただけです!  という返信を期待して待ってみるが、電源が入ってないらしく送信不能だった。    充電切れか…それこそ何かあったか?  今日は火曜日、うちのクラスに生物の授業はない。    6時限目にLHRが入っている。  後は昼休み、移動のついでに教室を覗く位大丈夫だよな。    しかし、4時限目の授業の後、女子生徒の質問に答えてから、通り掛かりでうちのクラスを覗くと既に橘の姿はなかった。  あいつはいったい何をやってるんだ?  俺と会おうって気は無いのか?  まさか避けてる?  待て…  …なに中学生みたいなことを考えてるんだ。  落ち着けよ蒼馬。    何かトラブルがあったんだ。    「蒼ちゃん!またぶすっとして~少し笑えば~」  前から歩いて来た女子生徒にいきなり声を掛けられて声の主を見る。    「ああ長谷川か、何だひとりなのか?」  「先生~柚衣ちゃんのこと?」  長谷川は近づいて来てこそこそっと言う。  なんだ、こいつの感の良さは?    「昼休みなのに一人なのか?って聞いただけだろ。」  「ヤダな~先生、分ってるよ。」  にやにやして肘打ちをしてくる。    なんなんだ?橘はこいつに何か言ってるのか?  「柚衣ちゃんとさ~お昼食べようねって約束したのにさ、先に坂口君に謝って来るからって3組に行っちゃって。  戻って来ないから迎えに行ってみたんだけど居なくてさ。  どこか場所変えて話してるのかもね。  なんかひどいケンカしたって言ってたから。」
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