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このまま首の後ろに手を滑らせて、耳の後ろや、首筋に指を這わせたらどうする?
君の反応を楽しんで抱きすくめたら?
その半開きの口元の柔らかさを味わったら?
想像するだけでゾクっとする自分を押し止め、親指と人差し指をくいっと動かし頬を摘んだ。
「せんせ、いたい…」
「せんせって言った」
今度は彼女の突き出た下唇を摘んで茶化す。
「そーまひどい!」
「ゆいはかわいいね…」
「それ、絶対ばかにして言ってる。」
言い方が悪かった?
不機嫌そうに睨んで来る彼女は尚更可愛くて、悪戯な指は小さな鼻を潰したり摘んだり、一向に彼女の顔を離れようとしない。
ホントに食べちゃいたい。
そう声に出して彼女を翻弄し、ずっと戯れていたいけど、そうもいかない。
「ご飯食べた?」
「う~ん、どうかな?」
「俺も食べて無いから。
どこか行って食べよう。」
「え?でも誰かに会ったら…」
「そんなに、心配しなくても大丈夫だよ、小さいとこならお客も少ないし…」
「先生の部屋は、だめなんだ。」
気落ちした彼女の様子から、人のいない所じゃないとできない話かも知れないと、思い至る。
「俺が、ゆずごろも食べたくなったらどうすんの?」
「え?その小さいお店には置いてあるの?」
「……座布団5枚だ…」
「…?」
ダメだ…頭を抱えてしまう。
結構直接的な表現だと思ったけど、きっと何かフィルターが掛かってて、その手の意味はこいつの頭には届かない仕組みになってるんだ。
「いや、……じゃあ、ピザでも取ろうか。」
もう一度、大きく息を吐きだして、エンジンを掛ける。
「ピザ好き~」
隣で脳天気に笑うやつに、羊の皮を脱ぎたくてしょうがない狼の気持ちなんて分る筈もない。
いや、騎士様だから。
狼じゃないから。
そう自分に言い聞かせて、自分のマンションへとハンドルを切った。
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