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雛鳥扱いが悔しくて、どうだ、まいったか的なノリで先生の鎖骨にキスをした私。
その考えなしの行動はすぐ、先生の復讐に会う。
「ほんとに何考えてんだよ!」
「え?」
先生は私を抱きしめていた腕を緩め、片手を顎に掛け上を向かせると、触れんばかりのところまで顔を寄せる。
先生の眼鏡のフレームが私の頬にあたる程の至近距離。
先生の腕の中にいる時から心拍数は上がっていたけど、それ以上に激しく脈打つ鼓動が、聞こえてしまいそうだ。
顔が火照って真っ赤になってるのが自分でも分かる。
恥ずかしさで、先生の視線から逃れたかった私は思わず両手を上げて先生の顎を上に押しやった。
その手を先生に掴まれ、そのままソファの上に押し倒されてしまった。
さっきまでの優しい目と打って変わり、射竦めるような目に睨まれる。
柔らかく癒しの言葉を紡いだ唇は堅く引き結ばれて、片方だけ皮肉な色合いを見せて口角があがる。
「キスして蒼馬。って言ってごらん。」
無、無理!
言葉を発しようと口を開けてみるけど、声が出てこない。
必死に首を振る。
頭の上で万歳をした格好で両手は封じられたまま。
間近に迫る先生の眼鏡の奥の眼が猫の目の様に細められるのが見えると、背筋にゾクッと来た。
先生は、私の両手を片手で掴み直すと、自由になった右手で自分の眼鏡を外し、テーブルの上に置くとその手で私の顎を挟む。
もう、イヤイヤも出来ず、先生の黒い瞳の暗闇の中に吸い込まれそうで、思わず目を瞑る。
「ほら、ゆい。自分で望んだんでしょ?
ちゃんと目を開けて見なくちゃ。
自分が女だって感じてるって。
俺が欲しかったら言ってごらん。
蒼馬、キスして、って。」
おそるおそる、眼を開ける。
私を見つめる先生の瞳の中に自分が見える。
先生は悪魔の様に微笑んでもいないし、ふざけたり、からかってもいない。
本当に?
先生、本当に?
先生の瞳に酔ったようになって、掠れた声で答える。
「そーま、キスして。」
その時、確かに私は女だった。
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