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先生、なんで…と聞こうとしたら、「あ、そこで停めて」とゆーかちゃんの声に遮られた。
先生が車をマンションが立ち並ぶ路肩に停める。
「じゃあ、ゆいちゃんまた明日ね~。
蒼ちゃん、ありがとうね!」
日が沈んで辺りはすっかり薄暗くなっている。
ゆーかちゃんが手を振ってちょっと先のマンションの一棟に入って行くのを、車の中から見送っていると、「橘、」と先生に呼ばれた。
「なに?先生。」と振り向く。
「このままじゃ、タクシーみたいだから、前、来て。」
「は、はい。」
先生の隣って緊張しちゃうから、このまま後ろでいいよねーなんて思ってたのに、それでも呼ばれるとちょっと嬉しくてちょっとドキドキして、変に意識して顔が火照ってしまう。
一回、外に出て助手席に移る、シートベルトをして先生の方を見ると、先生も私を見ていた。
慌てて目を逸らして下を向く。
クスッと笑いを漏らす声が聞こえて、車は静かに走り出した。
街灯や、車のテールランプ、道路際に並ぶカーディーラーやレストランの照明が目立って来て、もう夜だよと教えてくれる。
車は国道を北上して行く。
先生に聞きたいこと、話したい事がいっぱいあったのに、何一つ声にならない。
お母さんのことどう思った?
土日またライブハウスに行ってたんでしょ?
校長先生に見つかって大丈夫だったの?
先生、なんで色々お見通しなの?
伊織が確かめに来たら私とのこと話すってことだよね?
先生、面倒だって思ってない?
ずっと前を向いてハンドルを握る横顔をこっそり眺める。
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