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「何か喋れば。」
相変わらず前を向いたままだ。
「え?そんな急に言われても」
「いっぱいありそうだけど、聞きたいこと。」
「それはそうなんですけど…」
「……じゃあ、俺から。」
「は、はい。」
「橘のお父さん、いつならいいって?お店訪問」
あ、それか…
「あ、父はお店に来てくれるなら、夜8時過ぎ位がいいらしいですけど…週の半ばならいつでもって、言ってました。」
「じゃああさっての夜8時に行きますって伝えてくれる?」
「は、はい。」
「じゃあ、先生と生徒の会話はお終い。」
先生がそう言った時、信号が変わり前の車が速度を落として止まった。
先生もゆっくりと車を止めて私の方に顔を向ける。
「さっき、何、考えてた?」
「えっと、色々。
土日、ライブに行ってた?とか、
お母さんどう思った?とか、
校長先生に注意されて、大丈夫なの?とか、」
「ライブには行ったよ。今回はリハーサルと1ステージ。
まあまあ、手応えあり。
お母さんは…実は去年、副担として面談に参加した時に同じタイプの人が居て、担任だった現国の近藤先生から対応の仕方を教わったんだ。
だから今日はほとんどそのマニュアル通りだよ、がっかりした?」
「いえ、困った保護者だと思われなかったかな?って」
「お母さんが悪く思われたかもって心配してたんだ。」
前の車が動き始めて先生もまた前に向き直る。
「柚衣はいい子だね。」
小さい子みたいな言われ方をして、かっと顔が熱くなる。
「自分であんなに悪く言っといて虫がいいって思うんだけど。」
「身内ってそう言うもんでしょ。
多分俺も一緒だから、気にしなくていいよ。
それに、お母さんは心の弱い人なんだと思う。
君にそのしわ寄せが行くのは困ったもんだけどね。」
いつも、思う。
先生の言葉は魔法みたいにじんわり私の中に沁み込んで肩を軽くしてくれる。
他ならぬ先生の言葉だから…と思うけど。
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