何かが起こっている

14/17
前へ
/263ページ
次へ
     「校長に注意された件は、そうだね少し気を付ける必要があるかもね。    でも、取り敢えず言い訳が通じたみたいだから。」    「言い訳?」    「そう、特別気になる生徒なんですって。」    「え!言い訳になってない…と…思うけど…」  先生は少し躊躇してから次の言葉を繰り出した。    「ごめん、中学校からの書類を見せることになった。」  ああそうか、そういう言い訳ね。    でも、ホントに言い訳かな?って心のどこかで思ってる。    先生を信じていない訳じゃないのに。       「嫌だよね、蒸し返してごめん、でも教頭が何か考えてそうだから…橘に何か言って来るかも知れないし、そういう話にしてあるって事、知っておいて。」    「うん、わかった。大丈夫。」    「今7時だね、15分までには着くと思うけどー」    「あ、お母さんには帰りは8時頃って、それより遅くなる時は連絡するって言ってあるんだけど…」    「……」    「ダメ?」     「……悪い子だね……。」        ため息混じりに言われた『悪い子だね』に、私の鼓動は早くなる。  さっき言われたいい子だね、の時と違う意味で頬が、体が火照る。    先生の傍に居たい、単純に傍に居たいと思う気持ちの奥に、触れられたいと願う自分がいる。    保護の必要な傷ついた子供としてじゃなく、先生の気持ちが欲しい。    先生の言葉はそんな私を見透かしているのだろうか?    それとも、ただ親に嘘を吐いてることに言われた言葉だろうか?    車がマンションの駐車場に滑り込む。    車を降りエレベーターに向かう先生の少し後ろを付いて行く。  エレベーターに二人で乗り込む時も、乗っている間も、降りる時も、先生は私の肩を抱き寄せることもなく、見上げる私と視線を合わせることもない。    ただ黙って先を行く先生の後を小走りで付いて行く。    先生が自分の部屋のドアを開け私を見下ろし「8時までね」と言った時、私は泣き出す寸前だった。   
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1369人が本棚に入れています
本棚に追加