先生のパーカー

5/6
1368人が本棚に入れています
本棚に追加
/263ページ
 先生は、私を駅ビル出口付近のベンチに座らせると、  「ここで、待ってて。」  と言って、私のリュックを物ジチにして、またスーパーの方へ戻って行った。   恥ずかしさと後悔と不安とが入れ替わり立ち代わり襲って来る。  先生に羽織らされたパーカーに袖を通して、匂いを嗅ぎ、先生に包み込まれているような錯覚に、ほんのちょっと慰められていると、程無くして、先生が、帰ってきた。  さっきの買い物の続きをしてきたらしく、白いスーパーの袋を提げて居る。  あぁ、買い物して無いや……。  先生は、荷物を一旦ベンチの上に置くと、「ちょっと立って」と、私を立たせ、自分は屈むとパーカーのチャックを下から上までジーと締めた。   「暑いかも、だね。我慢してくれる?すぐだから。」  そして、また荷物を全部片手に持つと、私の手を引いて歩き出した。  「あ…先生、リュック自分で持ちますから……」  あわてて、手を繋がれたまま、先生の前に回りもう一方の手をリュックに伸ばした。  不審げに私を見下ろす先生に、「に、逃げません…から…」と言うと、    無表情だった先生の口角が上がり、ニヤっと笑った。『悪魔の微笑みってこう言うのかも』と思い一瞬ゾクッとした。  それでも、リュックを私の背中に背負わせると、また手を繋ぎ駅ビルから外へ出る。  厚着のせいか先生に握られているからか、自分の手がやけに熱い、サラリと冷たい先生の手が凄く気持ちいい。  あんなに後悔していた筈なのに、こうして手を繋がれていると、ふわふわと浮き足だってしまう自分が止められない。  きっと怒られるんだから、喜んでる場合じゃないんだから!  これから取り調べなんだから。  また、私が泣くかもと思って、人目に付かないところに連行されてるんだから。  あれ、ここは、駅前のマンション?
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!