特別扱いの理由

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「また、コンビニ?」  車がマンションを出て5分程、もうすぐコンビニと言う所で、先生に言われはっとする。  「ダメ!横の路地に入ってください!」  先生はウインカーを出して、手前の路地を左折させた。  最初の曲がり角の手前で停めてもらう。  「もしかして、お父さんのコンビニ?」  「そうなんです。今10時頃ですよね、丁度レジに居る時間だと思うから。ごめんなさい、もっと早く言えば良かったのに。」  道路は辛うじて車がすれ違える広さしかない。  早く降りなくちゃと慌てて、シートベルトを外し  「ありがとうございました。」と頭を下げた。  「ちょっと待って。玄関まで送る」  と先生も降りようとするのを両手を振って止めた。 「いいです、いいです。道狭いし。家、そこだし」  それでも先生はちょっとだから大丈夫と言って、車から出てしまう。  そうなったら、ぐずぐずしてる方が迷惑になってしまうので、私も降りて、自分の家に向かう。     道を反対側に渡れば、1軒戻るだけ。住宅街の中に売り出されていた中古住宅を5年前に父が買って引っ越してから、ここが我が家だ。  小さな形だけの門扉を開け3歩で玄関、リュックから鍵を取り出し玄関のドアを開けながらもう一度先生に頭を下げた。  「ありがとう、ございました。もう大丈夫ですから。」  「それだけ?つれないね。」    見上げると常夜灯に照らし出された先生の妖しい微笑み。  こ、この目を見ちゃいかん。  咄嗟に目をギュッと瞑り、下を向く…筈が両頬を捉えられ、否応なく上に向かされた。  「明日、準備室においで。放課後」目を覗き込まれて囁かれる。  「明日は部活のある日で…」 ちっと言う音が聞こえる。!今舌打ちしました?!  「じゃあ、昼休みに待ってて。それと、ここに橘のアドレス送って。」  とポケットから出して来た小さい紙を渡された。  その時丁度コンビニの方から、やってくる車のライトが見え、「じゃあ」と小さく手を上げ先生が車に戻って行くのを見送る。  私は、大きく息を一つ、吐いた。
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