新世界

6/7
319人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
 ギィ、と木の軋む音をたてて扉が開いた。 「あー、どうも。突然お邪魔してすみませ───」  扉が開いて、その先に見えたのは壁。一瞬戸惑いそのまま視線を上げていくと、まるで毛玉の中に二つの眼、そして鼻と口が一つずつ。そうして、壁だと錯覚した物が人間であると漸く気付いたのだった。  扉の上枠を身を屈めて潜りながら、図体のとんでもなく大きい男がぬっと現れる。ドアを出てくるのにかなり無理をしていた事と、体感で自分の視点の高さと比較して身長2m以上はある様だ。灰色の縮れたボサボサ髪とわたがしのように蓄えられた髭が一体化していて、その隙間から見える肌には皺が溢れ、鼻は潰れていた。体毛で元の顔が分かり難いが十中八九日本人、それどころかアジア人ではないだろう。コーカソイド、所謂欧米人の顔立ちだ。  また、着ている服はあまり質の良いものではなさそうに思える。そもそも今時こんなに粗い毛皮で出来たぼろぼろのシャツを着ている事も驚きだが、その上には木か革で出来ているだろう簡素な鎧を備え、腰には柄から延びる鞘。恐らく刃の厚い剣らしき物を携えている。作り物かは分からなかったが、何だか怖くてそれからは直ぐに眼を逸らした。 「…。あ、ぁー、その、ですね。」  剣、まさか本物だろうか。このご時世許可無しにそんなものを持っていたら直ぐ様警察にしょっぴかれるのが法治国家なりしここ日本である。しかし、男は刀剣を携えていることがさも当たり前の様に、自分が向けている奇異の視線を気にする様子もなく堂々と立っている。  もしかすると男は俳優、剣は小道具で、今は映画か何かの撮影中、そこに図らずとも入ってきてしまったのだろうか。その様に一瞬考えたが、現在この場に流れる剣呑な雰囲気は決してその様に芝居染みたものでは無い。見る者全てに粗暴な印象を与えるだろう風貌をしたその大男は、眼光鋭くこちらをぎろりと睨んできた。  いや怖すぎるわ。犬共があれなら飼い主も飼い主(推測)だ。あークソまずい、逃げたい。しかしここで態度を急変させる事は余計に相手を刺激することに成りかねないとして、焦りの感情を隠す。彼の放つ威圧感から来る恐怖も何とか抑え込み、冷静に言葉を話そうと努める。必死で笑顔を作った。変に顔は引きつっていないだろうか、凝り固まった笑みなんかになってはいないだろうか。 「えーと…少し、お尋ねしたいのですが」
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!