プロローグ

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 ある晴れた夏の朝。近所の家の庭には向日葵が大きな花を咲かせ、快晴の空には飛行機雲が一本、グラウンドに引く石灰粉のラインの様に引かれている。種類には疎いが、セミのジージーといった鳴き声、騒音を煩わしく思いながら学校への道を進む。ケータイを取り出し、時刻を確認、いつも通りの時間だ。さて、ケータイを仕舞い、ながら歩きをお巡りさんや誰かが見ていないかと辺りを見回す。 すると自分とは反対側の歩道を友人が歩いている。見慣れた全身紺のブレザーを身につけながら、これまた見慣れた道を歩く彼。 どうせなら一緒に行きたい。そう思って近づくが、どうやら向こうはこちらに気が付いていない様だ。取り敢えず声をかけてみる。 「おーい、翔!」 友人は振り返った後手を振って応答し、手招きする。口は動いていないが、「こっちに来いよ」という意味だろう。そこまで朝が早いという訳ではないが、丁度車も無かったので車道を左右確認して渡り、そのまま友人の隣に着いて共に歩き始める。 「珍しいな」 「何がさ」 「翔がこんな早くに学校に向かってる事」 「やっぱそう思う?いやね、何だか今日は目が冴えてていつもみたいに二度寝しなかったんだよ。久し振りにゆっくり飯食ったわ」 「あっそ」 人間の三大欲求の内、睡眠欲が一番割合を占めているのではないかと思う程寝る事が好きな友人、『溝口 翔(みぞぐち かける)』が朝の二度寝をしないのは本当に珍しい。彼は良く寝る。授業中は勿論、暇があればいつだって。 しばらく昨日の晩飯の話、番組は何を見ていたかなど駄弁りながら歩く。侵入防止用の柵が見えてきたかと思えば、いつの間にか校門の前まで来ていた。自宅と学校はまあまあ距離があるが、そうと感じない程は楽しい時間だったと実感する。翔とは保育園で一緒になってから一度もクラスが別れた事は無く、それは今年も同じで、放課や放課後はいつもつるんでいる。 二人揃って靴を脱いで廊下を進み、同じ教室に入り、自分達よりも早く来ていたクラスメイト達に挨拶する。荷物を整理して暫く立つとだんだん生徒も揃ってくる。ホームルーム開始ギリギリになって漸く若い担任の眼鏡教師(通称:ガリ谷)がやって来て、始業の挨拶をした。いつも通りの一日の始まり。そしてこれからもいつも通りの一日が終わっていくのだ。 いや、そうなる筈だった。
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