プロローグ

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 とんでもない事を言われたが、分かった事が二つある。まず一つは声からして強盗は男だと言う事、もう一つは今自分は拳銃を突き付けられてかなり危険な状態だと言う事だ。日本は世界の中でも一番治安が良いと聞く、自分自身そう思っていたがそれは間違いだったのか。とにかくこの国でどうやって銃を手に入れたのか、フード野郎は堅気の人間じゃないのか、そもそもその銃は本物なのかとかいう疑問はこの際一々気にしていられない。 お金を渡しても良いのだろうか。まさか、良い訳が無い。このレジには今日の売り上げが全部入ってる。ただの下働きである自分がそれを渡して良い訳が無い。 実を言うと直ぐにでも渡して出て行ってもらいたいのだが。 ニュースで強盗に押し入られた所の報道を見て気の毒位にしか思っていなかった自分の身に同じ事が起こるだなんて夢にも思わなかった。こんな時の対処なんて分からない。店員が撃退したケースとかもたまに聞くけど、ヒーローになるつもりは無いし、そんな事が出来る筈も無い。 「.....」 強盗は拳銃の安全装置らしき物を外して急かしてきた。どうしようヤバイ。冷や汗で背中が気持ち悪い。 「早く」 マズイ、そろそろ限界か。恐怖からか無意識にゆっくりとレジに手が伸びる。 その時だった。いきなり強盗の両肩に腕が回され、強盗を羽交い締めにする。命知らずな人も居たもんだと感心しながらも助かったとその命知らずへ感謝する。結局誰の仕業なのか、強盗の背後の顔を恐る恐る確認する。 「おい!早くコイツから銃を奪え!」 あっ、店長。今まで空気だった店長、棚の蔭に隠れて強盗から見えていなかったのか。 店長のお陰で重苦しかった空気が緩んで、強張っていた体が自由になる。 「は、はい」 レジを飛び越えて自分も組み付こうとした。が、 「……!」 何を思ったか、強盗は銃を宙に放り投げた。多勢に無勢と観念したのか。そう一瞬でも思ってしまったから、次の行動への反応が遅れた。 「げぇっ!」 銃を捨てたのは観念したのではなかった。強盗は踵で店長の脛を蹴って怯ませ、空いた右腕で肘鉄を繰り出し店長の鳩尾にヒット。捕縛から逃れた後、片腕を掴んで背負い投げを決めた…俺に向けて。 店長が降ってくる。 「うおぉおぉぉっ!」 「ぐぉっ!?」 店員代表店長と下っ端店員、死す。
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