プロローグ

7/15
前へ
/69ページ
次へ
 自分と店長二人を倒した強盗はレジ机を乗り越え、ちゃっかりお金を持ち去ろうとしていた。早く捕まえなきゃ駄目だ。ボソボソと小声で店長に話しかける。 「て、店長。大丈夫ですか」 「無理。骨折れたかも…」 「アイツ追っかけるんで休んでて下さい、あと警察も呼んでください」 「一人で?危険だ、止めときなって」 十分危険な目には遭っているのだが、それでも心配してくれる。 「本当大丈夫です、なんとか動けるんで。直ぐ戻ります」 憎たらしい強盗に眼を見やるとそそくさとコンビニから出ようとしていた。自分の体に鞭打ち、立ち上がる。絶対逃がさん。 ーーーーーー ーーーー ーー その時、自分は商品棚の整理をしていた。今日はどこかおかしな夜で、夕方は多少あった客足も全く無かった。 とても静かで、バイト君も退屈そうにしていた。 久方ぶりに入店音が流れ、一瞬作業の手を止める。「いらっしゃいませ」と先にあの子が言ってくれたから品物を見に入ってきたお客さんが近付いて来てから自分もまた言えば良い、と商品を詰める作業に戻った。しかしこちらに近付いてくる気配は無い。 すると、 「金を出せ」 そうドスの効いた声が聞こえてきた。一瞬空耳を疑ったが棚の陰から覗くと、バイト君の焦る顔とフード付きパーカーの人間の後ろ姿が眼に入った。何らかの凶器を突き付けられているのは明らかだった。 とんでもない事になってしまった。店長になって数年、こんな目に遭った経験は無いし対処の仕方もわからない。取り敢えず彼だけは助けなくてはならないと思った。 抜き足差し足で背後に忍び寄り、一気に掴み掛かった。 フードの男が手に持っていたのは拳銃、認識した瞬間「マズイ」と思ったからレジの向こうで固まる彼にも加勢を求める。 「おい!早くコイツから銃を奪え!」 いつもなら出さない程の大声を出した途端、高揚感みたいな物が沸き上がってきて、何としてでもこの強盗を捕まえなくてはならないと感じ、更に腕の力を強める。 するとどうした事か、強盗はその手に持った拳銃を頭上に放り投げた。何故切り札と言っても良い武器を捨てる様な真似をしたのか。思わず拳銃を自分達は目で追ってしまった。 ほんの少しの隙だった。 「いっ」 脛、弁慶の泣き所に激痛が走り、 「げぇっ!」 鳩尾を殴られ、思わず嗚咽と悲鳴が混ざった様な声が出てしまう。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

319人が本棚に入れています
本棚に追加