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「よろしく、美月。」
流星はごく自然に、私を『美月』と呼んだ。
初対面の彼にそう呼ばれることに少しも違和感は感じなかった。
だから私も同じように呼んだ。
「よろしくね、流星。」
私の言葉に、彼は軽く頷いた。
流星の髪から零れる微かなシャンプーの香りが、優しく鼻孔を擽る。
すると、先程まで体内を流れていたはずの波の音は静かに海へと帰り、代わりに甘く緩やかな鼓動が全身に広がっていく。
何かが変わろうとしていた。
平凡だと思っていた日々に投じられた小石の波紋は、やがて大きな波となり私を呑み込んでいく。
過去を遡り、現在を押し流し、この先に訪れる未来さえも変えていく大きな波。
私は知らなかった。
この始まりが‥‥‥
本当の始まりではなかったこと。
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