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「如何云う了見だ、芝山。」
「俺の方が聞きたいて、前から言うてますよね。」
「何で逃がした。」
「逃がすて…忠興くんも氏郷くんも、足むっちゃ速いんやもん。」
「鼠取りでも仕掛けりゃ行けるか?」
「そら流石に無理ですわ、先生。」
「ったく…馬鹿ばっかりだな、此処に集まる連中は。」
「元々、ひとところに留まる人たちやないですから。」
「こうすっぽかされんじゃ俺の名に傷が付くってもんだ。今すぐ信長呼び付けて引き取らせろ。」
「またそないな事言うて。信長様かて暇やないですよ。」
「良いから、今すぐ呼べ。」
「上手く取り次げるやろか。」
「あ?」
「近いうちにまた、戦やるー言うてはりました。」
「手前ぇ、馬鹿か芝山。」
「そらぁ…此処に居てるからには、俺も同しよう振る舞わんと。」
「人生損しますわ。」
蛻の殻になった空間に背を向け、芝山は静かに告げる。
「連れ戻して来ますよって…少し、お暇頂きます。」
「ま、一応、用心して行け。」
「……はぁ。」
(結局、こうなるんやなぁ。)
小さな溜息はしかし、晴れやかな空に溶けてしまう。
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