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「さぁ、お茶にしよう。」
深い溜息で話を落ち着かせた牧村の手元にすっと差し出されるのは、ひやりと冷えた緑茶だった。
「瀬田さん。」
「手厳しいですね、牧村くん。」
後ろから場に緩みを入れる声は、くすくすと眼鏡の奥で笑う。
爽やかな風を纏う気配が牧村を静かに宥めた。
「…とんだ暴れ馬に育ってしまいましたね、細川くん。」
「育ての親が荒振ってますから。」
「…全く、初陣で死ななかった幸運を何だと思ってるんだろう。」
(有り得ない。)
牧村から洩れるのは、溜息ばかりだ。
苦笑を零す瀬田が其の左に並び、静かに告げる。
「必死なんですよ、彼なりに。」
「此方の気が保ちません。」
「誰しも通る道です、静かに見守りましょう。」
年長者らしく牧村を宥め続ける瀬田に、噂の暴れ馬がそろりと並んだ。
「……。」
緑茶に映る己でも見つめているのか、細川の視線は湯呑みから離れない。
「気にせずいきましょう、細川さん。」
発展途上の小さな背中を、瀬田は静かに撫でた。
「……。」
返事は無い。
ただぽたりと、湯呑みに何かが垂れ落ちた。
「細川さん。」
「……皆には…わからないよ。」
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