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まるで子供が駄々をこねる様に。
細川はその眼からぽろぽろと泪を零していた。
「あの人……自分がいつ死んでも良いって思ってます。」
「其れは、君だって同じだろう。」
「武士なんだから。」
牧村が瀬田の向こうから静かに答える。
しかし細川は、首を目一杯左右に振ってその答を否定した。
「僕は、死ぬのは…怖いです。」
小さな呟き。
あれだけ果敢な初陣を飾っておいて、どの口がそんな言葉を紡ぐのだろう。
居合わせた三人は、肩を竦める思いだった。
「理に適っていないね、その答は。」
告げる牧村の隣で
身を震わせながら泣き続ける細川の背を、瀬田は撫で続ける。
「君の額の傷は、そうは言っていない。」
「この傷は……勲章だから、良いの。」
「勲章?」
「…生きて帰れば…そうなるって言われた。」
「誰に。」
「……教えない。」
細川は着物の袖で泪を拭いながら、再度首を振る。
「あのな、細川く…」
「僕は…終わらせたいんだ!」
牧村の言葉を制すように細川は席を立った。
渡された緑茶は律儀に飲み干している。
「ごちそうさまでした…。帰ります。」
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