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「可愛い可愛い細川様を泣くに至らしめた、大馬鹿だろうが!」
庭先に響き渡る声は、佇む草木すらぴりっと揺れるようで
当事者の二人が慌てて止めに入る程だ。
「俺やないですよ!!」
「そうです、先生。僕が泣かせました。」
「ちがうっ!僕が…僕が勝手に泣いたから…!」
「だったら手前ぇ等は井戸の水でも被って来い。」
平然と返って来る台詞に二人はあっさり、為す術が無くなった。
「ちょ、先生!ほんま耳…千切れますよって!!」
芝山だけがじたじたと巨体から逃れようともがく。
尤も、抵抗すると耳に食い込んだ指圧は更に増すだけなのだが。
「利休先生。お戻りでしたか。」
「おう、瀬田か。俺ぁ謹慎にしろっつってた筈だがな。如何云う了見だ。」
駆け付けた声に答えながら、利休と呼ばれる巨体は気が済んだとばかりに芝山を解放した。
「何と言いますか…面目ありません。」
困り顔を浮かべるも、瀬田は当然とばかりに頭を下げる。
「…やめて…。」
震える小声は、細川のものだった。
(帰りたい。)
喉まで出掛かった言葉を、必死に飲み込む。
そんな甘さが許されない場所だと云う事だけは、理解出来たから。
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