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1500メートル走まで俺の出番はない。恭一が校舎側へ消えたのを見て、俺もすぐさま追いかけた。
「恭一?恭一~」
グラウンドにいないのは確かだ。でも、恭一の姿は一向に見当たらない…。
「あ、」
と思ったらいた。生徒玄関の中だ。"体育大会当日 校舎内立入り禁止"の貼紙が堂々とドアに貼ってあるにもかかわらず、フツーに入ってる。
なんて奴だ。
俺も強い日射しから暗い影の中に逃げるように入った。突然の明度の転換に目がおかしくなる。
「きょうい…
…ち………」
3年の靴箱の前で崩れた三角座りをしている恭一まで目線を移して、足が止まってしまった。
不規則に肩を揺らせて、食いしばった歯の奥から微かに嗚咽が漏れている。恭一が泣いてるのを見るのは初めてだった。
アイツがだよ。信じられない。こんな事で泣くような奴じゃ……
「恭一 …」
いや、俺が知らなかっただけかも。つーか俺なら泣けない。涙流すのって、弱いイメージあるし……いやいや、あったし。
恭一は強い。泣けるから強いんだ。
「……………なに……?」
恭一は腕に顔を伏せたまま返事をする。
「あー…いや、その」
名前を呼んでみたものの、いざ励ますってなると何を言えばいいのか分からない。俺がべそかいた時には、恭一がいつもキザな台詞を放ってくれたもんだけど…、あれって結構難しいんじゃないかと思った。
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