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人の夢と書いて
「儚いって読むんですよねー。悲しいと思いません?」
国語の教科書を開き、由伽[ヨシカ]が隣で呟いた。次の試験範囲に漢文が入っているらしい。
「人の夢か……確かに儚いな。夢のままにしてたら消える。けど、現実にすれば消えることもねーだろ。お前だってカメラマン目指してるんじゃないのか?」
「目指してますよ!現実にしてみせますよ!私はカメラマンになるって、友達にも宣言してるんですから!」
そう言って、由伽が顔を上げる。
オレ達のいる山からは街並みが見える。この景色に江戸の面影が残っている頃から、オレは人間と接してきた。
「友達……」
「?」
街を眺めていると、昔の記憶を頭が勝手に探る。
「トモダチ…コイビト……。
そういう人間同士の関係の方が、儚いと思う」
オレも人間に化けていた頃は、ごっこ程度になら友達も恋人もいた。たった数十年の間に何回も相手が代わり、皆次々に死んでいった。
「友情も愛情も……少し突っつけばすぐに壊れる。そんな奴を何百人と見てきた。お前もその友達が大切なら、せいぜい今のうちにその関係を楽しんどくんだな」
「…………」
由伽がぼんやりと口を開けてこっちを見る。厳しいことを言ってしまったかと思ったが、そのままくすくすと笑った。
「何だよ」
「さとるさんって、昔話をすると一気に老け込みますね!なんか本当おじいちゃんみた…いたッ!」
「せめて天狗みたいって言え」
からかった罰として拳骨をお見舞いしてやる。頭を抱えて呻く姿を横目に、オレはまた街を見た。
初めて出来た 大切な人
オレも
今を楽しんでおかないと。
-終-
(『カラス天狗が泣いた』その後の話)
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