運命の始まり

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「おかえり、ひまり」 玄関のドアを開けると、お母さんがリビングからひょっこり顔を出した。 「手を洗って、うがいしてきて。お隣の奥さんから、ぶどうのおすそ分け頂いたの!」 嬉しそうに笑うお母さんを見ていたら、さっき小学生に笑われたことで卑屈になった自分が、何だか馬鹿らしく思えてきた。 手洗い、うがいを済ませてから部屋に戻り、制服を脱ぎハンガーにかける。そして、部屋着に着替えて、ゴロリとベッドに横たわり、目を瞑る。 私の瞼の裏には…… 魔法の足の彼の、華麗な足さばきが浮かんできた。 「かっこよかったなぁ」 どこの学校の人なんだろ? 顔はよく見えなかったけど、背が大きくて、あんな風にイキイキとボールを蹴る姿を見たら、 大抵の女子の視線は集めるだろうな。 「ひまりー! ぶどう食べないのー?」 お母さんが下から呼ぶ大きな声で、私は一気に脳裏に焼き付く彼の存在を頭から追い出す。 「今、下りていくー!」 そう返事をして、リビングへと階段を駆け下りた。
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