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「待って! 待ってよ! まさる君!」
私がそう叫ぶのを無視した彼は、構わずに腕を引っ張るから、途中で転ぶんじゃないかとヒヤヒヤした。
「うわぉ~! キレイなおねえさん!」
「ほら、俺の言った通りだろー」
「おねえさん、名前は? 名前!」
子ども達が私を囲んで、質問攻めにしてくる。
すると、その時。
ゴツッ!
鈍い音が数回、順番に聞こえてきた。
「痛っ!」
「何すんだよ!タケル!」
「マジ、いてー!」
口々に痛いと訴えた彼らは、頭をさすりながら、少し涙目になった目を押さえる。そして、頭にゲンコツを入れたであろう、私の横に立つ長身の男に抗議する。
「お前らなー、ガキのくせにナンパなんぞ100年早いわ!」
そんな声につられて、
見上げたその先には。
真っ黒に日に焼けて、
シャープな輪郭の顎。
目はパチリと大きい。
うん。
うちの学校には間違いなく居ないタイプの……
魔法の足の彼が立っていたんだ。
「俺は忙しいんだぞ! お前らのくだらんナンパに付き合ってるヒマはない! 分かったら早くアップしとけ!」
タケル……と呼ばれたこの男に、そう言われた子ども達は、何とも素直に聞き入れ、
「やべっ、みんな急げ!」
と、ボールを持って走りだす。
私はそのやりとりを、ただ呆然と眺めていた。
あまり、見ちゃいけないのは分かっているけど。
気になる……
隣にいる、この男がとても気になる……
チラッ……
私は気づかれないように、
視線だけを動かして見た。
今まで立っていた彼は、腰を下ろし、シューズの紐を縛っていた。
私の目線は、ちょうど彼の後頭部。
あっ、つむじ発見……
髪……さらさらだぁ。
彼が動く度に揺れるその髪の流れに、私は……ただただ見つめた。
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