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「何?」
低いその声に、身をすくめた。
「……」
“ あなたを見ていました ”
なんて言えない……
言える訳ないでしょ……
「しかと?」
そう言いながら、立ち上がると、結び終えたシューズのつま先でトントンと地面を2回、叩く。
「別に……見てないし」
私は苦し紛れに、そう一言呟く。
「……ふーん。あっそ。
……じゃ、別に良いけど」
明らかに、私の嘘に気付いた言いようであったが、子ども達の輪に駆け寄る彼の後ろ姿を、私はじっと目で追った。
私はもう、この場を立ち去っても良いはずなのに。私はこの場にいる意味もないのに。
でも……
まだここにいたい……
そう思えた私は、
何の為に家を出てきたのかも、もうすっかり忘れていた。
何でだろう?
まだこの場所にいたかったんだ。
まだ、
あの背中を見ていたかったんだ。
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