『未来へーー』

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「以前、お食事をご馳走して頂いたことがあって。AKIさんが、あまりにも正昭さんに似ていらっしゃったから」 兄弟かと思った位です。 と、私はそこまで言おうとしたところで、真木先生が部屋に戻られて、話は中断されてしまった。 確信に迫れなかった残念な思いと共に湧いた感情は、もしAKIさんが正昭さんと兄弟で、タケルのお父さんだとしても、 私がどうすることではない。 タケルとお父さんを引き合わせようとか、タケルのお母さんに知らせようとか、 そんなつもりは、ないんだし。 真木先生はまた目をキラキラさせて、AKIさんを見つめながら話していた。 だって。 真木先生の想い人であるAKIさん。 そして。そのAKIさんは、まだタケルとお母さんを想っている。 だからこそ、変な好奇心を振り回して、それぞれの想いに土足で踏み込んじゃいけないような気がしたんだ。 そんなことを思いながら、先生とAKIさんの会話に耳を傾ける。有名カメラマンである彼に仕事を依頼した場合、破格的ギャラが必要となるようで…… 「これだけ用意して貰えたら、バンコクまで同行しますよ」 と白い歯を見せながら笑ったと同時に。長い指を使って数字を表す。 それを見た私は恐ろしくて「とんでもないです!」と、声を上げた。 「AKIさん、高いわよっ!」 真木先生が、AKIさんの肩を叩く。 「俺だってな、飯食うのに必死な訳。同情なんかで、仕事引き受けられないだろ」 ごもっともな意見だ。それに私だって、自分の本の為に多額のお金が動くことに何だか怖い位だ。 それは、もちろん真木先生の本のように、売れる保証は全くないからである。 出版するって。本を出すだけで満足しちゃいけないんだ。 本を出すということは、事務所からたくさんのお金が動く。だからこそ、読者のみなさんに購入して貰えるような本を作らなくてはならないのだ。 自分の為の単なる思い出作り。はたまた、夢物語だけでは済まないんだって、恥ずかしながら、今更出版することの重みがズシッと乗りかかってきた。
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