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当たり前のことなんだけど。『働く』ということは責任が発生し、『仕事』をするということは、社運を担うということなのだ。
生半可な気持ちでは受けられないからこそ、“社会人” って大変なんだな。
あと数ヶ月で大学生を終え、社会へ踏み出す前に身が引き締まる思いがした。
「……いいわ。AKIさん! あなたにお願いするから」
突然言い出した、真木先生の言葉にその場に居合わせたスタッフもギョッとした。
「いや、真木先生。予算ってもんがありまして。勝手に話を進められては困ります」
困り果てたスタッフは、真木先生に前言撤回をお願いしたが、
「いいの。予算オーバー分は、私が個人的に出すから。AKIさんに頼みましょ。いいわよね?お金払うんだから、ちゃんと引き受けてよね?」
長い足を組みながら、一人悠々とコーヒーを飲むAKIさんに問いかける。
それを聞いたAKIさんは返事の代わりに、満面の笑みを返す。
結局。
AKIさんには、もちろんタケルとのことは、それ以上の詮索はしなかった。そして、打ち合わせが終わると、飛ぶように次のスタジオに向かって行った。
静まり返った部屋に、真木先生と2人。私はたまらずに聞いた。
「先生、本当に良かったんですか?何だか、申し訳なくて」
「何が? お金のこと? そんなこと、ひまりちゃんが気にすることないから。私はね。今まで出してきた本も、これから出版していく本も。大切に思ってる。かけがえのない私の歴史」
真木先生の話に耳を傾ける。
「大事に大事に育ててきた、数々のレシピ達が一冊の本という形となって生まれてくるんだもの。
“可愛い子には旅をさせろ” ってよく言ったもんよね。まさにその通り!読者の皆様に見て貰えるまでが、私達が作る本の旅になるんだから。その為には、妥協も手抜きも許さないわ」
力強い口調で、私の目を見ながらそう言い切った真木先生。
だから、
あなたも覚悟しなさい。
そんな風に、言われている感じがした。だからこそ、私も腹を決めて、今出来る最大限の努力をしよう。そう思った。
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